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大阪地方裁判所 昭和28年(行)45号 判決

原告 佐藤亮

被告 茨木税務署長

主文

被告が昭和二七年四月五日原告に対してした原告の昭和二六年分所得税の総所得金額を三八三、二〇〇円とする更正処分のうち、一八九、五〇〇円を超える部分を取り消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用を四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

原告は「被告が昭和二七年四月五日原告に対してした原告の昭和二六年分所得税の総所得金額を三八三、二〇〇円とする更正処分のうち、一三〇、〇〇〇円を超える部分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

「一、原告は肩書住所で牛乳販売業を営んでいるものであるが、被告に対し、昭和二六年分所得税の確定申告として、総所得金額を一三〇、〇〇〇円、所得税額を七、八〇〇円と申告したところ、被告は昭和二七年四月五日右総所得金額を三八三、二〇〇円、所得税額を八七、二〇〇円と更正する処分をし、原告に通知した。原告は同年五月三日被告に再調査の請求をしたが三ケ月以内に決定がなされなかつたため大阪国税局長に審査の請求があつたものとみなされ(所得税法第四九条第四項)同国税局長は、昭和二八年四月七日原告の審査請求を棄却する旨の決定をし、これを原告に通知した。

二、しかしながら、昭和二六年は、原告の病臥による営業経費の増大や一般的不況のため利潤少なく、年間総所得は原告の申告した額しかなかつた。被告の右更正は、原告の所得の実情を無視して推計により不当に高額に認定した違法があるから、その取消を求める。

三、なお、原告の昭和二七年分所得額確定額は二六四、〇〇〇円昭和二八年分所得額確定額は二八四、〇〇〇円で、右両年はいずれも昭和二六年より販売量等多く営業成績の向上した年であつたから、このことから見ても本件被告の更正額が過大であることが明らかである。」

と述べ、被告の主張に対し次のとおり述べた。

「被告の主張事実のうち、原告が昭和二六年中に訴外岡崎牧場から牛乳を仕入れた事実、原告の同年中の吹田牛乳処理所関係分の牛乳仕入数量及びその売上数量、岡崎牧場からの牛乳仕入数量及びその売上数量、岡崎牧場からの仕入価額、生クリームの仕入数量及び売上数量、消耗品費、修繕費、雇人費、電力費、公租公課家賃のそれぞれの額が被告主張のとおりであること以上の事実はいずれも認める。

被告の主張事実のうち、原告が争う点及びその詳細は次のとおりである。

(一)  原告が原乳を直接酪農家や専業牧場から仕入れたことはない。吹田牛乳処理所は原告等牛乳販売業者七名が出資して組合組織で設立したもので、営利を目的とするものではなく、その収支がほとんど相償う程度にして運営されていた。その運営の方法は、同処理所がみずから近郊農業家等から原乳を仕入れて飲料用に処理し、これを原乳価額に加工手数料を加えた価額で原告等に販売したものである。

(二)  原告の昭和二六年中の牛乳の販売単価は、吹田牛乳処理所から仕入れた分については、八、九、一〇の三ケ月(一合入りビン合計一〇六、四二五本)は一本につき平均一二円、その他の月は平均一二円五〇銭、岡崎牧場から仕入れた分については一本につき一一円(この分は全部卸売)、生クリームの販売単価は一本(一合入りビン)につき八七円である。原告が脱脂乳を岡崎牧場に売つた事実はない。よつて原告の同年中の収入金は合計四、二三八、三六一円である。

(三)  原告が同年中吹田牛乳処理所から仕入れた牛乳の仕入価額は一本につき一〇円、生クリームの仕入価額は一本につき八〇円である。よつて商品原価は三、四九七、五〇〇円である。

(四)  岡崎牧場から仕入れた分については、腐敗甚だしく、かつ紛失ビン代の補償金がかさみ、結局ビン代補償金に二二、六〇〇円(見本代九、〇〇〇円を含む。)を要したので利益なく、かえつて欠損となつた。

(五)  以上(二)ないし(四)の金額及び原告の争わない消耗品費等の必要経費を集計すると、原告の昭和二六年中の総所得金額は一一五、〇〇六円となる。

(六)  原告は岡崎牧場との取引をかくしていたのではない。本件所得額更正にあたつて調査に来た茨木税務署員や審査にあたつて調査に来た大阪国税局協議団員に岡崎牧場との取引のことを申し出で、利益がなかつたことを説明したところ、いずれもこれを了解し、計算の便宜上岡崎牧場の分は除外することになつたものである。また昭和二七年分の所得額調査に際しても、原告が田鎖浜一名義で訴外明治乳業株引会社と取引している事実を申し出で、前述の同年分の所得額には右取引の分も含まれている。」

被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁及び主張として次のとおり述べた。

「一、原告の主張事実中一、の全部及び三、のうち昭和二七、二八両年分の原告の各所得額決定額が原告主張のとおりであることは認める。

二、原告の昭和二六年中の総収入金は四、四三四、五四二円、総支出金額は三、九一四、三一〇円であり、従つて総所得金額は右両者の差額すなわち五二〇、二三二円である。これより少ない額を認定した被告の更正処分はなんら違法ではない。(右の総所得金額が更正処分額と一致しないのは更正処分後調査した新たな資料によつたためである。)

原告は、主に原乳を吹田市、豊中市等の酪農家や専業牧場から仕入れ、これを当時原告ほか五名が経営していた吹田牛乳処理所で飲料用に処理して、一般家庭や飲食店等に販売していたものであるが、被告の調査に際してその取引を記録した営業帳簿等を備えつけていないと称してこれを提示せず、また取引関係についても虚構の申立が多く、大阪市東淀川区の岡崎牧場から処理済牛乳を仕入れている事実をかくしていたことが判明したりしたため、被告は、原告の申告に基いてはその取引の実態を把握することができないと認め、前述の収入額及び支出額の算定についてはやむなく推計々算の方法によつた。その詳細は次のとおりである。

(一)  被告が認定した原告の昭和二六年中の収支

(イ)  収入の部      内訳

売上金  四、四三三、三四二円

牛乳売上金    四、〇八〇、八九二円

生クリーム売上金   三五二、四五〇円

雑収入      一、二〇〇円

合計   四、四三四、五四二円

(ロ)  支出の部

商品原価 三、三一一、〇五五円

牛乳原価     三、〇五一、三五五円

生クリーム原価    二五九、七〇〇円

消耗品費   一九〇、四〇二円

包装紙代         六、〇一五円

ゴム靴代           八七〇円

氷代          四五、七一二円

破損ビン補増費    一三七、八〇五円

修繕費     六五、八九五円

雇人費    三〇六、〇〇〇円

電力費     一七、二一二円

公租公課    二〇、六二六円

家賃       三、一二〇円

合計   三、九一四、三一〇円

(二)  計算の根基

(イ)  牛乳売上金

原告が吹田牛乳処理所で処理して販売した分は原告提出の昭和二六年分所得税確定申告書(乙第一号証)の記載を採用して、一合入りビン二九八、六八九本、岡崎牧場から仕入れて販売した分は調査の結果一合入りビン二一、三八一本である。

この販売価額を一本につき小売値一四円、卸値一一円五〇銭と推定し、原告の場合小売と卸の数量の割合は各五割であるから、一本につき平均一二円七五銭の割合で計算した。

(ロ)  生クリーム売上金

一合入りビン三、七一〇本、販売価額一本につき九五円。数量は確定申告書(乙第一号証)の記載を採用し、販売単価は原告の申立によつたものである。

(ハ)  雑収入

これは岡崎牧場へ脱脂乳を売つた売上金(調査の結果判明)で、岡崎牧場からの仕入代金と相殺しており、生クリーム製造の際にできたものであるから原価は〇である。

(ニ)  牛乳原価

仕入数量は売上数量と同じ。岡崎牧場からは処理済のものを一本につき一〇円で仕入れている。吹田牛乳処理所で処理した分については、酪農家等から仕入れた原乳の価額を一合(一本分)につき七円、処理所での処理費を一本につき二円五〇銭として計算した。農林省畜産局の調べによると、市乳用原料牛乳の価額は昭和二六年度の全国平均が一升当り五三円弱である。大阪近郊の当時の原乳価は全国平均よりやゝ高値で、五六円ないし五八円程度であるから、被告が認定した一合当り七円の原乳価は原告に不利でない。吹田牛乳処理所での処理費は一本につき二円五〇銭以下と推察できるので、二円五〇銭とした。

(ホ)  生クリーム原価

生クリームは原告が吹田牛乳処理所で製造したもので、製造量は売上数量と同じである。この原価を一本につき七〇円として計算した。昭和二六年当時売値一本当り九五円(この額は原告の申立による。)の生クリームの品質はクリーム濃度四〇%程度のもので、これを六合製造するのに脂肪分三、一%程度の製品用原乳一斗を必要とする。当時製品用原乳一斗当りの価額は三七〇円程度であるから、生クリーム一合当りの原乳価は六二円弱となり、製造諸経費を加えても被告が認定した一本当りの原価七〇円を超えることはない。

三、原告は、昭和二七、八両年分の原告の所得額定額と比較して、本件更正処分が不当に高額であることが明らかであるというが、被告が右両年分の所得額を原告主張のような金額で確定させたのは、当時原告が、田鎖浜一の仮装名義を用いて明治乳業株式会社住吉工場から牛乳その他の乳製品を多量仕入れながら、この事実をかくしていたので、被告が仕入先は訴外吹田乳業株式会社だけであるとの原告の申立を信用したためである。従つて昭和二七、八両年分の所得額確定額を昭和二六年分との比較の根拠にするのは理由がない。」

なお、岡崎牧場との取引の分について「原告主張のビン代補償金の存在を争う。」と述べた。(立証省略)

理由

一、原告主張の一の事実は当事者間に争いがない。原告本人尋問の結果(第二回)及び弁論の全趣旨によれば、原告は昭和二六年中の仕入、売上等の営業内容を正確に把握することのできる諸帳簿を完備していなかつたことが認められるから、被告が、本件更正処分をするにあたつて、推計の方法によつて原告の同年中の所得金額を算出したのは正当である。

そこで、以下被告のした推計が正しいかどうかについて判断する。

二、被告の主張事実中、原告が昭和二六年中に岡崎牧場から牛乳を仕入れたこと、原告の同年中の吹田牛乳処理所関係分の牛乳の入手数量及びその売上数量が一合入りビン二九八、六八九本であること、岡崎牧場からの牛乳の仕入数量及びその売上数量が一合入りビン二一、三八一本であること岡崎牧場からの仕入価額が一本につき一〇円であること、生クリームの入手数量及びその売上数量が一合入りビン三、七一〇本であること、消耗品費、修繕費、雇人費、電力費、公租公課、家賃の額がいずれも被告主張のとおりであること、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

三、次に争点について順次判断する。

(一)  牛乳売上金

(イ)  吹田牛乳処理所関係 証人児島幸一、同松村玄次、同山内昌典の各証言及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば同処理所は原告等七名が出資して組合組織で設立したもので、出資者が組合員となり、各組合員が原乳をそれぞれの得意先の酪農家等から集荷し、これを持ち寄つて、同処理所で全部混合して飲料用に処理し、その処理済牛乳を各組合員に必要量に応じて配分していたことが認められる。

そうして、原告が同処理所から配分を受けた牛乳の販売価額は、卸の場合は、右各証人の証言及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば、一本につき一一円五〇銭程度であると認めることができるから、被告の推定は正当であるが、小売の場合は、被告は一本につき一四円と推定したことについてなんら具体的な根拠を主張せず、またこの推定が合理的であることを認めるに足る証拠もない。右各証人の証言及び弁論の全趣旨によれば、一本につき一三円五〇銭程度と認めるのが相当である。更に、被告は原告の販売の態様が年間を通じて卸五割小売五割であるとして計算しているが、原告本人尋問の結果(第一、二回)及び成立に争いのない乙第一三号証によれば、原告の昭和二六年吹田牛乳処理所から配分を受けた牛乳の卸売数と小売数の割合は、夏場(七、八、九月)を除いては五割宛、夏場は卸七割小売三割程度であることを認めることができる。被告の推計は、この季節的変化を考慮に入れていないから、この点不合理であり、修正されなければならない。そこで、右認定の卸と小売の各単価及び割合から一本当りの平均単価を計算すると、夏場を除いては一二円五〇銭、夏場は一二円一〇銭となる。なお証人駒木根宜子の証言により真正に成立したものと認める甲第一号証によれば、原告が夏場の三ケ月間に販売した吹田牛乳処理所関係の牛乳は、合計一〇五、五六八本であることが認められる。

(ロ)  岡崎牧場関係 被告は、原告が岡崎牧場から仕入れた牛乳についても、吹田牛乳処理所の牛乳と同様にに、半分を小売、半分を卸売したものとして販売価額を推計しているのであるが、右の推計が正当であることを認めるに足る証拠はなく、かえつて、証人竹村夘之助の証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)及び証人吉田留雄の証言により真正に成立したものと認めることのできる乙第一〇号証によれば、原告は、岡崎牧場から仕入れた牛乳を、ほとんど全部訴外竹村夘之助に卸売したことが認められる。従つて被告の右推計の結果を採用することはできない。そうして、右証人竹村の証言及び原告本人尋問の結果によれば、竹村への卸売価額は一本につき一一円であることが認められる。

以上認定の事実及び当事者間に争いのない事実から原告の昭和二六年中の牛乳売上金総額を計算すると、三、九二六、五七六円(一円未満切捨)となる。

(算式 12.5×(298689-105568)+12.1×105568+11×21381)

(二)  生クリーム売上金

証人松村玄次、同山内昌典、同吉田留雄、同南口安広の各証言並びに成立に争いのない乙第一三号証によれば、原告が昭和二六年中に売つた生クリームの販売価額は一本につき平均九五円程所であると認めることができる。従つて被告のこの点に関する推計は正当である。原告本人尋問の結果(第一回)中右認定に反する部分は措信せず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。そうすると、原告の同年中の生クリーム売上金は合計三五二、四五〇円となる。

(算式 95×3710=352450)

(三)  雑収入

前記乙第一〇号証によれば、岡崎牧場の原告との取引帳簿上岡崎牧場が原告から脱脂乳を一、二〇〇円分買い入れ、この代金と原告に対する牛乳売上代金とを差し引きして清算したように記載されているが、原告本人尋問の結果(第一、二回)に対比するときは右乙第一〇号証のみではこの一、二〇〇円が原告の収入であるとの被告の主張を認めることはできず、他に被告の右主張を認めるに足る証拠はない。

(四)  牛乳原価

前記二、(一)、(イ)記載の各証人の証言及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば、吹田牛乳処理所の計理は次のような方法によつていたことを認めることができる。すなわち、原乳の処理に要した一切の経費及び組合員が各自酪農家等から集荷してきた原乳の代金を加えた金額を処理済牛乳本数で割つて一本当りの費用を算出し、これを各組合員からその組合員に対する処理済牛乳配分本数に応じて徴収し、更に破損ビン代とか腐敗した牛乳の仕入代金を別途に各組合員に割り当てゝ徴収し、原乳の仕入先に対する支払は、同処理所の計理から直接または各組合員を通じてしていたものである。

右各証人の証言、原告本人尋問の結果(第一回)及び成立に争いのない乙第一四号証を総合すると、原告等が吹田牛乳処理所で取り扱つた牛乳の原価は一合につき七円、処理費は二円五〇銭で、処理済牛乳一本を九円五〇銭で仕切つていたものであることを認めることができる。従つてこの点に関する被告の推計は正当である。右認定を覆えすに足る証拠はない。しかしながら、被告は、原告が直接酪農家等から原乳を仕入れこれを吹田牛乳処理所の施設を利用して処理して販売したのであると主張しながら、その仕入数量と売上数量を全く同一のものとして、これを推計の基礎としているが、牛乳のような商品の場合、処理の際のロスとか売れ残りとかを全然考慮に入れない推計は合理的ではないから、この点被告の推計は修正されなければならない。証人松村玄次、同山内昌典の各証言によれば、昭和二六年中に吹田牛乳処理所が仕入れた牛乳のうち、一一月と一二月に各二石程度余つて腐敗した分が出たので、その原乳代を各組合員に割り当てゝ追加徴収をしたこと、その金額が多く見積つても一人当り五、〇〇〇円を超えないことを認めることができる。また、前記乙第一四号証及び証人児島幸一の証言によれば、被告が吹田牛乳処理所での処理経費を推計する根拠資料としたものと考えられる右乙第一四号証の、処理費二円ないし二円五〇銭との記載は、同処理所で破損した牛乳ビンの代価を含んでいないことが認められる。従つて、被告主張の処理経費二円五〇銭の中には同処理所で破損したビンの代価は計上されていないものといわざるをえない。しかし、回収した牛乳ビンを洗つたり、新たに処理済牛乳をつめたりする過程で若干破損するものがあることは当然予想されるところであるから、この点を考慮しなかつた被告の推計は合理的でない。そうして、前記証人児島の証言によれ、右破損ビン代は、各組合員にその処理済牛乳引取本数に応じて配分し、これを各組合員から徴収したもので、その金額は、処理済牛乳一本当り四〇銭と認めることができる。

以上認定の事実及び当事者間に争いのない事実から原告の昭和二六年中の牛乳原価を計算すると、合計三、一七五、八三一円(一円未満切捨)となる。

(算式(9.5+0.4)×298689+5000+10×21381=3175831.1)

(五)  生クリーム原価

原告が販売した生クリームが吹田牛乳処理所で製造されたものであることを認めるに足る証拠はない。従つて原告が吹田牛乳処理所で製造したことを基礎として算出された被告主張の生クリーム原価は採用できない。原告が自ら製造したものでないとすると、他から仕入れたことゝなるが、生クームの仕入価額が原告主張の一本につき八〇円より低額であることを認めることのできる証拠はないから、結局原告主張の通り一本につき八〇円として計算しなければならない。そうすると原告の昭和二六年中に仕入れた生クリームの原価は合計二九六、八〇〇円となる。

(算式 80×3710=296800)

(六)  岡崎牧場関係の取引の必要経費

証人吉田留雄の証言、原告本人尋問の結果並びに前掲乙第一〇号証によれば、原告岡崎牧場から仕入れた牛乳の空ビンを岡崎牧場へ返還できない場合には、補償金として空ビン一本につき一〇円岡崎牧場へ支払うこととなつており、その補償金の昭和二六年中の総額が岡崎牧場との取引が終つた同年五月七日現在一三、六〇〇円であつたことを認めることができる。その後原告が、岡崎牧場へ空ビンを返還して補償金を返してもらつたとか、原告の卸し先から右のビン代を徴収したとかの事実を認めることのできる証拠はない。従つて右の一三、六〇〇円は原告の同年中の収支計算において必要経費に計上されなければならない。そうして、原告の岡崎牧場との取引の必要経費は、牛乳仕入代金及び右のビン代補償金のみであつて、それ以外にはなかつたものと認めるのが相当である。原告は右ビン代補償金のほかに見本代として九、〇〇〇円を要したとか、仕入れた牛乳に腐敗した分があつたとか主張し、原告本人尋問の結果(第一、二回)は右主張にそうようであるが、この点に関する右原告本人尋問の結果はとうてい納得できないので、さきの認定を左右するに足りない。

四、以上認定した各事実及び当事者間に争いのない各事実によれば、原告の昭和二六年中の収支計算は次のとおりとなる。

(イ)  収入の部          内訳

売上金    四、二七九、〇二六円

牛乳売上金    三、九二六、五七六円

生クリーム売上金   三五二、四五〇円

合計     四、二七九、〇二六円

(ロ)  支出の部

商品原価   三、四七二、六三一円

牛乳原価     三、一七五、八三一円

生クリーム原価    二九六、八〇〇円

消耗品費     一九〇、四〇二円

修繕費       六五、八九五円

雇人費      三〇六、〇〇〇円

電力費       一七、二一二円

公租公課      二〇、六二六円

家賃         三、一二〇円

岡崎牧場に対する

ビン代補償金    一三、六〇〇円

合計     四、〇八九、四八六円

(ハ)  所得金額 一八九、五四〇円

五、結局原告の昭和二六年中の総所得金額は一八九、五〇〇円(国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律第五条により一〇〇円未満切捨)である。被告のした本件更正処分のうち右金額を超える部分は違法である。よつて、原告の本訴請求のうち右一八九、五〇〇円を超える部分の本件更正処分の取消を求める部分は正当であるから認容し、その余の部分の請求は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 平峯降 松田延雄 高橋欣一)

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